アルミ加工は難しい?加工の注意点について
アルミニウムは軽量で錆びにくいなど多くのメリットを持つ金属ですが、その加工は難しいと言われることがあります。
これは、アルミニウム特有の熱に弱い、柔らかいといった性質に起因します。
しかし、材料の特性を正しく理解し、適切な工具や加工条件といった注意点を押さえることで、高精度な加工は十分に可能です。
この記事では、アルミ加工が難しいとされる理由から、加工を成功させるための具体的なポイントまでを解説します。
アルミ加工が難しいと言われる3つの理由
アルミ加工が難しいとされる背景には、主に3つの理由が存在します。
鉄やステンレスなどの他の金属とは異なる性質を持つため、同様の切削加工を行うと、熱による変形や溶着といった問題が発生しやすくなります。
これらの問題を回避するためには、アルミの特性を理解した上で、工具の選定や加工条件の設定など、適切な方法を選択することが不可欠です。
ここでは、その代表的な理由を掘り下げていきます。
理由1:熱による変形や溶融が起きやすい
アルミニウムは熱伝導率が高く、融点が低いという特徴を持っています。
具体的には、鉄の約3倍も熱を伝えやすく、融点は約660℃と鉄の1538℃に比べて非常に低いです。
この性質のため、切削加工時に発生した熱が工具や加工箇所にこもりやすく、ワーク全体に素早く伝わってしまいます。
蓄積された熱は材料を膨張させ、加工後の冷却過程で収縮する際に、製品の寸法に狂いが生じる「熱変形」や「歪み」の原因となります。
特に薄い板材や複雑な形状の部品ではこの影響が顕著に現れ、ひどい場合には加工箇所が溶けてしまうこともあります。
理由2:素材が柔らかくキズがつきやすい
アルミニウムは、鉄やステンレスと比較して非常に柔らかい金属です。
この柔らかさは加工しやすいというメリットにつながる一方で、デメリットにもなり得ます。
加工中に工具と接触した際に意図しないキズがついたり、バイスで固定する際の締め付けが強すぎると打痕が残ったりすることがあります。
これらのキズや打痕は製品の外観品質を損なうだけでなく、精密な部品においては精度にも直接影響を及ぼします。
そのため、加工時の固定方法や完成品の取り扱いには細心の注意を払う必要があり、保護シートの使用や専用の治具を用意するなどの対策が求められます。
理由3:工具の刃に切りくずが溶着しやすい
アルミニウムは柔らかく粘り気があるため、切削時に発生した切りくずが工具の刃先に熱で溶かされ、付着してしまう「溶着」が起きやすいです。
この溶着した切りくずが成長したものは「構成刃先」と呼ばれ、切れ味を著しく低下させます。
構成刃先が発生すると、加工面のむしれや寸法精度の悪化を引き起こすだけでなく、工具の寿命を縮める原因にもなります。
対策としては、すくい角の大きなシャープな刃を持つ工具を使用したり、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングのような滑りやすい表面処理が施された工具を選んだりすることが有効です。
また、サーメットのような溶着しにくい材質の工具を選択する方法もあります。
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アルミを加工するメリットとは?
加工の難しさが指摘される一方で、アルミニウムは様々な分野で広く利用されています。
その理由は、鉄やステンレスといった他の金属材料にはない優れたメリットを数多く備えているためです。
軽量であることや錆びにくい性質は、製品の性能向上や長寿命化に大きく貢献します。
また、リサイクル性の高さは環境負荷の低減という現代社会の要求にも応えるものです。
これらのメリットを理解することは、アルミニウムという素材の価値を最大限に引き出す上で重要です。
製品の軽量化に貢献できる
アルミニウムの最大のメリットの一つは、その軽さにあります。
比重が約2.7g/cm³であり、これは鉄(約7.8g/cm³)やステンレス(約7.9g/cm³)の約3分の1に相当します。
この特性により、製品の総重量を大幅に削減することが可能です。
自動車や鉄道車両、航空機などの輸送機器では、軽量化が燃費性能の向上や運動性能の向上に直結するため、アルミニウム部品が積極的に採用されています。
また、柔らかく延性にも富んでいるため、他の金属に比べて加工しやすいという側面も持ち合わせています。
これにより、複雑な形状の部品やデザイン性の高い製品の製造にも適しており、幅広い分野での活用が進んでいます。
錆びにくいため耐食性に優れる
アルミニウムは、大気中で酸素と結合して表面に非常に薄く緻密な酸化皮膜を自然に形成する性質を持っています。
この不動態皮膜がバリアとなり、内部の金属を腐食から保護するため、優れた耐食性を発揮します。
鉄のように赤錆が発生することがなく、特別な防錆処理を施さなくても長期間にわたって美観を保つことが可能です。
この特性を活かして、建材や厨房機器、飲料缶など、屋外での使用や水分に触れる機会が多い製品に広く利用されています。
さらに、アルマイト処理を施すことで、この酸化皮膜を人工的に厚くし、耐食性や耐摩耗性をさらに向上させることもできます。
リサイクルしやすく環境負荷が低い
アルミニウムはリサイクル効率が非常に高い金属であり、「リサイクルの王様」とも呼ばれています。
低い融点のおかげで、ボーキサイトから新しいアルミニウム地金を精錬する場合と比較して、リサイクルに必要なエネルギーはわずか3%程度で済みます。
また、スクラップから再生しても品質の劣化がほとんどないため、何度でも繰り返しリサイクルすることが可能です。
この特性は、天然資源の消費を抑え、CO2排出量を大幅に削減することにつながります。
持続可能な社会の実現が求められる現代において、アルミニウムのリサイクル性の高さは、環境負荷の低い製品作りへの貢献という点で非常に大きなメリットとなります。
【番号別】アルミ合金の種類とそれぞれの特徴
単に「アルミニウム」と言っても、実際には様々な種類のアルミ合金が存在します。
JIS規格では、添加される主要な元素によって1000系から7000系まで分類されており、それぞれ異なる特徴を持っています。
例えば、強度、耐食性、加工性、溶接性などは合金の種類によって大きく異なります。
そのため、製品の用途や求められる性能に応じて最適な材料を選定することが極めて重要です。
ここでは、代表的なアルミ合金の系統とその特徴について解説します。
1000系:純度が高く加工性に優れた純アルミニウム
1000系は、アルミニウム純度が99.00%以上の純アルミニウムに分類される材料です。
不純物が少ないため非常に柔らかく、塑性加工性に優れているのが最大の特徴です。
そのため、ヘラ絞りや深絞り、曲げ加工といった複雑な形状を作り出す加工に適しています。
一方で、純度が高い分、強度は他の合金系に比べて最も低く、構造用の材料としてはあまり使用されません。
しかし、導電性や熱伝導性、耐食性は非常に高いため、送電線や放熱フィン、家庭用品、食品容器などに広く利用されています。
代表的な番手にはA1050やA1100があり、加工性の良さを活かした製品作りに欠かせない材料です。
2000系:銅を添加し鋼材に匹敵する強度を持つジュラルミン
2000系は、主に銅を添加したアルミ合金で、「ジュラルミン」という名称で広く知られています。
この系統の最大の特徴は、熱処理を施すことによって、鋼材に匹敵するほどの高い強度を得られる点です。
その優れた強度と軽量性を両立できることから、高い強度が求められる航空機の機体構造部材やロケット部品などに不可欠な材料となっています。
ただし、銅を含有するため耐食性は他のアルミ合金に比べて劣るという欠点があります。
そのため、使用環境によっては表面に純アルミを圧着したクラッド材を用いたり、アルマイト処理などの防食処理を施したりする必要があります。
5000系:マグネシウムを添加し耐食性と溶接性が高い
5000系は、マグネシウムを主な添加元素とするアルミ合金です。
この系統は、中程度の強度を持ちながら、優れた耐食性と溶接性を兼ね備えているのが大きな特徴です。
特に海水に対する耐食性が非常に高いため、船舶の船体や部品、沿岸地域の建築資材などに広く採用されています。
また、溶接を行っても強度低下が少なく、割れも生じにくいため、溶接構造物に適しています。
マグネシウムの添加量が多いほど強度は高くなりますが、応力腐食割れへの配慮が必要になる場合があります。
代表的な番手には、汎用性が高いA5052や、より高い強度を持つA5083などがあります。
6000系:強度と耐食性のバランスが良い万能なアルミ合金
6000系は、マグネシウムとシリコンを添加したアルミ合金で、強度、耐食性、加工性のバランスが非常に良いことから、最も汎用性が高い材料の一つとして知られています。
この6000系合金は熱処理によって強度を高めることができ、T6処理と呼ばれる熱処理を施すことで、SS400に迫る強度を発揮します。
また、押出加工性にも優れているため、複雑な断面形状の形材を製造しやすく、建築用のサッシやドア、自動車の構造部材、機械のフレームなど、幅広い用途で使用されています。
代表的な材料としてA6061やA6063があり、その扱いやすさから様々な製品の基幹材料となっています。
7000系:アルミ合金の中で最も高い強度を誇る超々ジュラルミン
7000系は、亜鉛とマグネシウムを主成分とするアルミ合金で、全てのアルミ合金の中で最高の強度を持つ系統です。
特にA7075は「超々ジュラルミン」として知られ、適切な熱処理を施すことで、一部の鋼材を上回る引張強度を発揮します。
その卓越した強度と軽量性から、航空機の主翼や降着装置といった特に高い負荷がかかる構造部材や、レーシングカーの部品、高強度が求められるスポーツ用品などに使用されています。
一方で、非常に高い強度を持つ反面、応力腐食割れを起こしやすい傾向があるため、設計や使用環境には十分な配慮が必要です。
アルミ加工を成功させるための4つのポイント
アルミニウムが持つ特有の性質に起因する加工の難しさは、いくつかのポイントを押さえることで克服できます。
切削や穴あけといった基本的な加工においても、適切な対策を講じなければ、寸法精度の悪化や仕上げ面の品質低下につながりかねません。
ここでは、アルミ加工を成功に導き、高品質な製品を安定して製造するために不可欠な4つのポイントについて、具体的な方法とともに解説します。
これらの要素を総合的に管理することが、安定した加工の実現につながります。
ポイント1:すくい角の大きいアルミ専用の工具を選ぶ
アルミニウムは柔らかく粘り気があるため、切りくずの排出性が加工品質を大きく左右します。
切りくずがスムーズに排出されないと、構成刃先の原因となったり、加工面にキズをつけたりします。
この問題を解決するためには、すくい角の大きい工具を選ぶことが非常に有効です。
すくい角が大きいと刃先が鋭利になり、切削抵抗が減少して切れ味が向上します。
これにより、切りくずがカールしやすくなり、スムーズに排出されるようになります。
市販されている「アルミ専用」と銘打たれたエンドミルやドリルは、このすくい角が大きく設計されているものがほとんどです。
また、刃先の表面を滑らかにするポリッシュ仕上げや、摩擦係数の低いDLCコーティングが施された工具も、溶着防止に効果的です。
ポイント2:切削速度を高速に設定して溶着を防ぐ
工具への切りくずの溶着を防ぐには、切削条件の最適化が重要です。
特に、加工速度(主軸回転数)をできるだけ高速に設定することは、アルミ加工における基本的な対策の一つです。
切削速度を上げることで、工具の刃先が材料と接触している時間がごくわずかになり、切りくずが刃先に溶着する前に排出されやすくなります。
これにより、構成刃先の成長を効果的に抑制できます。
また、加工によって発生した熱の多くが、ワークに伝わる前に切りくずとともに持ち去られるため、ワークの熱変形を抑える効果も期待できます。
ただし、送り速度とのバランスや使用する工作機械の剛性も考慮し、びびり振動が発生しない範囲で最適な条件を見つける必要があります。
ポイント3:加工に合った切削油(クーラント)を使用する
切削油(クーラント)は、アルミ加工において極めて重要な役割を果たします。
その主な役割は、加工点の冷却、工具とワーク間の潤滑、そして切りくずの洗浄・排出です。
アルミニウムは熱変形しやすいため、高い冷却効果を持つ切削油で加工点を冷やし、寸法精度を安定させることが不可欠です。
また、潤滑性を高めることで摩擦を減らし、構成刃先の発生を抑制します。
切削油には水に溶かして使用する水溶性と、原液のまま使用する不水溶性があり、アルミ加工では一般的に冷却性に優れる水溶性切削油が多用されます。
加工内容や求める仕上げ面の品質に応じて、適切な種類と濃度、供給方法(外部給油や工具先端から噴射する内部給油など)を選択することが重要です。
ポイント4:合金の種類に合わせて切削条件を調整する
これまで見てきたように、アルミ合金には純アルミに近い柔らかい1000系から、鋼材に匹敵する強度を持つ7000系まで、多種多様な種類が存在します。
これらの合金は、それぞれ硬度や粘り、被削性が大きく異なります。
例えば、柔らかく粘り強い1000系では溶着が起きやすく、高強度な7000系では切削抵抗が大きくなります。
そのため、全てのアルミ合金を同じ切削条件で加工することはできません。
使用する合金の特性を十分に理解し、その材料に合った切削速度、送り速度、切り込み量などを設定することが、高精度で効率的な加工を実現するための鍵となります。
工具メーカーが提供する推奨条件を参考にしつつ、実際の加工状況を確認しながら微調整を行うことが求められます。
まとめ
アルミ加工は、熱による変形、素材の柔らかさによるキズ、工具への溶着といった特有の課題から難しいと認識されることがあります。
しかし、これらの課題はアルミニウムの物理的特性に起因するものであり、適切な対策を講じることで克服が可能です。
具体的には、すくい角の大きいアルミ専用工具の選定、溶着を防ぐための高速な切削速度の設定、冷却と潤滑を担う適切な切削油の使用、そして多様な合金の種類に合わせた切削条件の調整が重要となります。
これらのポイントを押さえ、軽量性や耐食性といったアルミニウムの優れたメリットを活かすことで、高品質な製品の製造が実現します。
NBKではアルミ加工の専門業者とのネットワークを駆使してアルミ材の製品の品質保証、難しい形状の加工等を得意としております。