インサートとは?切削工具での意味や加工における役割を解説
インサートとは、切削工具において交換可能な刃先を指す部品です。
この意味は、工具本体の先端に取り付けて使用する、使い捨てのチップであると理解すると分かりやすいでしょう。
金属などを削る加工作業で摩耗した際に、刃先部分だけを交換できるため、工具全体の交換に比べて経済的かつ効率的です。
主な用途は、旋盤やフライス盤といった工作機械を用いた切削加工で、様々な材質や形状のものが存在します。
切削工具におけるインサートの基本的な役割
切削工具におけるインサートは、金属などの材料を削る「刃」の役割を担う重要な部品です。
旋盤やフライス盤などの工作機械に取り付けられた工具の先端に装着され、直接ワーク(加工対象物)に接触して切削を行います。
インサートが摩耗したり欠けたりした場合は、そのチップだけを新しいものに交換するだけで済みます。
これにより、工具全体を再研磨したり交換する手間とコストを大幅に削減でき、機械の停止時間を短縮して生産性を高めることが可能です。
インサートチップに使われる代表的な材質とその特徴
インサートチップは、加工する材料の種類や切削条件に応じて、最適な性能を発揮できるよう多様な素材から作られています。
インサートと被削材の相性が悪いと、工具の寿命が短くなったり、加工精度が低下したりする原因となります。
そのため、それぞれの材質が持つ特性を理解し、用途に合わせて正しくチップを選定することが重要です。
代表的な材質には、汎用性の高い超硬合金や、非常に硬い材料の加工に適したPCD、CBN、そして仕上げ加工に優れたサーメットなどがあります。
高い硬度と靭性を両立する「超硬合金」
超硬合金は、炭化タングステン(WC)などの硬質な金属炭化物の粉末を、コバルト(Co)などの鉄系金属で焼き固めて作られる合金です。
この製造方法により、非常に高い硬度と、欠けにくさを示す靭性(じんせい)という相反する特性を高いレベルで両立させています。
このバランスの良さから、鋼や鋳鉄、ステンレス鋼、非鉄金属まで幅広い被削材に対応でき、荒加工から仕上げ加工まで様々な切削条件で使用される、最も一般的なインサート材質です。
さらに、表面にコーティングを施すことで耐摩耗性や耐熱性を向上させたものが主流となっています。
ダイヤモンドに次ぐ硬さを持つ「PCD(焼結ダイヤモンド)」
PCD(PolycrystallineDiamond)は、人工的に合成したダイヤモンドの微粉末を、超高圧・高温下で焼結して作られた素材です。
天然ダイヤモンドに次ぐ極めて高い硬度を誇り、その硬さから卓越した耐摩耗性を発揮します。
この特性を活かし、工具の長寿命化や高精度な加工面の維持が可能です。
主な用途は、アルミニウム合金や銅合金といった非鉄金属、そしてセラミックスやFRP(繊維強化プラスチック)などの非金属材料の加工です。
反対に、高温下で鉄と化学反応を起こしやすい性質があるため、鉄系金属の加工には適していません。
鉄系金属の加工に適した「CBN(立方晶窒化ホウ素)」
CBN(CubicBoronNitride)は、ダイヤモンドに次ぐ硬さを持つ人工的な素材であり、特に高温下での硬度低下が少ないという優れた耐熱性を備えています。
PCDとは異なり鉄との反応性が低いため、高硬度に熱処理された焼入れ鋼や、工具鋼、鋳鉄といった鉄系金属の加工に非常に適しています。
この特性から、自動車のエンジン部品や金型など、硬くて精密な加工が求められる分野で威力を発揮します。
ただし、非常に硬い反面で靭性は低いため、衝撃に弱く欠けやすいという側面も持ち合わせており、安定した加工環境が必要です。
耐熱性と耐摩耗性に優れた「サーメット」
サーメットは、セラミックスとメタル(金属)からの造語であり、炭化チタン(TiC)や窒化チタン(TiN)を主成分とし、ニッケル(Ni)やコバルト(Co)を結合材として焼き固めた複合材料です。
超硬合金と比較して高温での硬度が高く、鉄との親和性が低いため、構成刃先(切削時に刃先に加工材が溶着する現象)が発生しにくい特長があります。
itisparticularlyeffectiveinhigh-speedfinishingofsteel,producingabeautifulmachinedsurface.
このため、鋼材の高速仕上げ加工において、光沢のある美しい加工面を得意とします。
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加工精度を高めるインサートチップ選定の5つのポイント
インサートチップを選定する際には、単に材質だけでなく、形状やサイズといった複数の要素を総合的に検討することが、加工の成否を分けます。
加工したい製品の品質、使用する機械の能力、そして生産効率などを考慮し、数多くの選択肢の中から最適なものを見つけ出す必要があります。
闇雲に選ぶのではなく、これから紹介する5つのポイントを順に確認していくことで、より論理的で適切なチップ選定が可能となり、加工精度の向上やトラブルの防止につながります。
加工する材料に合わせて「材種」を選ぶ
材種とは、インサートの母材となる材質と、その表面に施されるコーティングの種類を組み合わせたものです。
加工する材料には、炭素鋼、ステンレス鋼、鋳鉄、アルミニウム合金など様々な種類があり、それぞれ硬さや粘りといった特性が異なります。
そのため、被削材に合った材種を選ばないと、工具がすぐに摩耗したり、加工面が荒れたりする原因となります。
例えば、硬度の高い金型用の鋼材を加工する際には、それに対応した専用の材種が必要です。
各工具メーカーが被削材ごとに最適化した材種を多数用意しているため、カタログなどを参考に選定します。
切り込み角に影響する「チップの形状」を確認する
インサートチップには、三角形(T)、ひし形(D,V)、正方形(S)、円形(R)など、アルファベットで示される多様な形状があります。
この形状は、チップの刃先強度や、加工時にワークへ切り込んでいく際の角度(切り込み角)に大きく影響します。
例えば、刃先角が大きい正方形や円形のチップは強度が高く、重切削に向いています。
一方で、刃先角が鋭い三角形やひし形のチップは切れ味が良く、細部の加工や倣い加工に適しています。
溝加工(スロット)など、特定の加工を行うためには専用の形状を選ぶ必要があり、用途に応じた選択が不可欠です。
加工の安定性を左右する「チップのサイズ」を見極める
チップのサイズは、主に刃の長さや厚みで表され、加工時の安定性に直接関わります。
一般的に、サイズが大きいチップほど強度が高く、一度に深く削る「切り込み深さ」を大きくとれるため、荒加工や重切削に適しています。
しかし、必要以上に大きなチップを使用すると、切削抵抗が増加してしまい、加工中の振動である「びびり」が発生しやすくなるデメリットもあります。
逆に、小さなチップは切削抵抗が少ないため、小型の部品や仕上げ加工に向いています。
加工内容、特に切り込みの深さを考慮し、それに耐えうる範囲でできるだけ小さなサイズを選ぶことが、安定した加工への鍵となります。
加工面の仕上がりに重要な「ノーズR」を決定する
ノーズRとは、インサートのコーナー部分にある刃先の丸みの半径を指します。
この値は、加工面の粗さや刃先の強度に大きな影響を与えます。
ノーズRを大きくすると、刃先強度が高まり、滑らかで綺麗な加工面が得られやすくなりますが、切削抵抗が増加し、びびりが発生しやすくなる傾向があります。
反対にノーズRを小さくすると、切削抵抗は減少して切れ味は良くなりますが、刃先が欠けやすくなり、加工面の仕上がりも粗くなりがちです。
荒加工では切り込み深さに応じたものを、仕上げ加工では面粗さを重視して大きめのノーズRを選ぶなど、加工工程に合わせた選択が重要です。
面取りにもこのR形状が利用されることがあります。
切りくずの排出性に関わる「逃げ角」を考慮する
逃げ角とは、インサートの切れ刃のすぐ下の側面と、加工面との間に設けられた角度のことです。
この角度があることで、切れ刃以外の部分が加工面に接触して摩擦が起きるのを防ぎます。
逃げ角が0度のものは「ネガティブチップ」、角度がついているものは「ポジティブチップ」と呼ばれます。
ネガティブチップは刃先強度が高く、チップの両面を使用できるため経済性に優れますが、切削抵抗は大きくなります。
一方、ポジティブチップは切削抵抗が小さく切れ味が良いため、内径加工や細長いワークなど、びびりやすい加工に適しています。
精密なコネクタのような部品加工では、ポジティブチップがよく利用されます。
【補足】切削工具以外の分野で使われる「インサート」
「インサート」という言葉は、「挿入する」という意味の英語”insert”に由来し、切削工具の分野以外でも広く使われています。
一般的には、ある部材に埋め込まれたり、はめ込まれたりする部品の総称として用いられます。
例えば、建築分野ではコンクリート壁に配管や設備を固定するためのアンカー部品を指したり、自動車のアルミホイールに装飾や機能のために埋め込まれる別部品を指すことがあります。
また、より身近な例では、靴のサイズ調整や履き心地を改善するために入れる中敷きもインサート(インソール)と呼ばれます。
めねじの補強や修復に用いる「ねじインサート」
ねじインサートは、主にアルミニウムや樹脂といった、比較的強度が低い母材に埋め込むことで、耐久性の高いめねじを形成するための部品です。
これにより、強力な締結力を得たり、頻繁にボルトを着脱する箇所のめねじを摩耗から保護したりする目的で使われます。
また、潰れてしまった既存のネジ穴を修復するためにも用いられます。
製品としては、ステンレス鋼線をコイル状に巻いた「ヘリサート」や「recoil」といったブランドが有名です。
ねじの呼び径に対して、埋め込み後の長さを1d(直径と同じ長さ)、1.5d(直径の1.5倍の長さ)といった単位で示されるものがあります。
樹脂や木材に埋め込んで使用する「インサートナット」
インサートナットは、ねじ込みが難しい樹脂製品や木材に、金属製のめねじを設けるために使用される部品です。
このナットの外周には、ローレットと呼ばれるギザギザや溝が加工されており、母材に埋め込んだ際に空転したり抜けたりするのを防ぎます。
取り付け方法としては、熱で樹脂を溶かしながら圧入する方法や、超音波で振動させて埋め込む方法、あるいは木材に下穴を開けてねじ込むタイプなどがあります。
形状も様々で、単純な円筒形のスリーブ状のものから、六角レンチで締め付けられるソケットタイプまで、用途に応じて多岐にわたる製品が存在します。
樹脂と金属部品を一体化させる「インサート成形」
インサート成形は、製品を製造する成形プロセスの一種で、部品の名前ではありません。
これは、射出成形の金型内に、あらかじめ金属製のねじや端子、軸などの部品(インサート品)を配置しておき、その周囲に溶かした樹脂を流し込んで固め、一体の部品を作り出す技術です。
この方法を用いることで、金属が持つ強度や導電性といった特長と、樹脂が持つ軽量性や複雑な形状を作りやすいという特長を兼ね備えた高機能な部品を効率的に生産できます。
後から金属部品を圧入したり接着したりする工程が不要になるため、コスト削減や製品の小型化にもつながります。
まとめ
この記事では、切削工具における「インサート」の意味と役割、そしてその選定方法について解説しました。
インサートは交換可能な刃先であり、加工対象や目的に応じて適切な材質や形状を選ぶことが、加工品質や生産効率を大きく左右します。
インサートの材質には超硬合金やPCD、CBNなどがあり、選定の際には材種、チップの形状、サイズ、ノーズR、逃げ角の5つのポイントを総合的に考慮する必要があります。
また、切削工具以外にも、ねじインサートやインサートナット、インサート成形など、様々な分野で「インサート」という言葉が使われていることも紹介しました。
これらの知識は、インサートに関する理解を深める上で役立ちます。
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