ワイヤーカットとは?加工の仕組みやメリットとデメリットの解説
ワイヤーカットとは、電気エネルギーを利用して金属を精密に切断する加工方法です。
この記事では、放電現象を利用した加工の仕組みや、高精度な加工が可能といったメリット、そして加工速度が遅いなどのデメリットを詳しく解説します。
製造業の担当者や設計者がワイヤーカットの基礎を理解するために必要な情報を網羅的に提供します。
ワイヤーカットとは、電気の力で金属を精密に切断する加工方法
ワイヤーカット放電加工は、電極として非常に細いワイヤー線を用いる加工方法です。
ワイヤーカット放電加工機と呼ばれる専用の機械を使用し、加工液に浸した工作物とワイヤー線の間に放電を発生させ、その熱で金属を溶かしながら切断します。
この方法は、工具が直接素材に触れない非接触加工であるため、硬い材料でも精密な形状に加工できるのが大きな特徴です。
専用の機械はNC制御により、複雑なプログラムに沿って自動で加工を進めることが可能です。
ワイヤーカットの加工原理|放電現象を利用した仕組みを解説
ワイヤーカット加工は、水や油などの絶縁性の高い加工液の中で行われます。
具体的な加工手順として、まず工作物をプラス、ワイヤー電極をマイナスにして電圧をかけます。
両者がミクロン単位まで接近すると、絶縁破壊が起きて放電(スパーク)が発生し、その瞬間の高温で金属が溶融します。
溶けた金属は加工液によって冷却され、加工くずとして除去されます。
この一連の手順を1秒間に数千回から数万回という速さで繰り返す仕組みによって、金属を精密に溶かしながら切断していきます。
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ワイヤーカット加工が持つ3つの大きな特徴
ワイヤーカット加工には、他の切削加工や研削加工にはない、いくつかの際立った特徴があります。
その中でも特に重要なのが、加工できる材質の種類の豊富さ、ミクロン単位を誇る加工精度の高さ、そして斜めに切断するテーパー加工への対応力です。
これらの特徴を理解することで、ワイヤーカットがどのような製品や部品の製造に適しているのかを具体的に把握できます。
以下で、それぞれの特徴について詳しく見ていきます。
特徴1:電気を通す材質なら硬さに関わらず加工できる
ワイヤーカット加工の最も大きな特徴は、導電性を持つ材質であれば、その硬さに関係なく加工できる点にあります。
一般的な切削加工では難しいとされる焼入れ鋼や超硬合金といった高硬度の素材でも、電気を通す性質さえあれば容易に切断可能です。
このため、非常に幅広い種類の金属に対応でき、例えば工具鋼やステンレスはもちろん、銅、真鍮、アルミ、チタン、インコネルといった多様な材質の加工に利用されます。
工具が直接素材に触れない非接触加工であるため、加工時の応力がほとんどかからず、硬い材料でも変形や歪みを最小限に抑えながら精密な加工を実現します。
特徴2:ミクロン単位の極めて高い精度での加工が可能
ワイヤーカットは、極めて高い加工精度を実現できる工法です。
一般的に±5μm(0.005mm)程度の精度での加工が可能であり、加工条件を最適化すればさらに高い精度を追求することもできます。
この高精度を支えているのが、直径0.1mmから0.3mm程度の非常に細いワイヤー電極です。
このワイヤーの太さによって、微細な溝や鋭い角、複雑な輪郭など、他の加工方法では難しい形状を作り出すことができます。
NCプログラムによってワイヤーの動きが精密に制御されるため、指定されたサイズ通りに安定した品質で加工を進められる点も、高い精度を維持できる理由の一つです。
特徴3:垂直だけでなく斜めに切るテーパー加工にも対応
ワイヤーカット加工は、工作物に対して垂直に切断するだけでなく、斜めに切断するテーパー加工にも対応できます。
これは、ワイヤーをガイドする上下のノズルをそれぞれ独立して動かすことで実現します。
上のガイドと下のガイドの位置をずらすことでワイヤーに角度がつき、その角度を維持したまま加工を進めることが可能です。
このテーパー加工により、パンチとダイのような上下でクリアランスが必要な金型部品や、抜き勾配が必要な形状を一度の工程で製作できます。
加工可能な角度は機械の性能や工作物の厚さによって異なりますが、複雑な三次元形状の創出に大きく貢献する機能です。
ワイヤーカット加工のメリット
ワイヤーカット加工は、その独自の加工原理から多くのメリットを持っています。
特に、非常に複雑で微細な形状を高精度で実現できる点は、他の加工方法にはない大きな強みです。
この特性は、精密な金型や試作品の製作において非常に重宝されます。
また、バリの発生が少なく切断面が滑らかであることや、素材への負担が少ないため、極めて薄い薄板の加工にも適しています。
以下で、具体的なメリットを詳しく解説します。
複雑で微細な形状も正確に作り出せる
ワイヤーカット加工の最大のメリットは、複雑で微細な形状を極めて正確に作り出せる点です。
直径0.1mmほどの細いワイヤー電極を使用するため、切削加工で使うエンドミルのような工具では不可能な、鋭い角を持つ形状や狭いスリットの加工を実現できます。
また、NCプログラムによってワイヤーの軌跡が精密に制御されるため、設計データ通りの複雑な輪郭を忠実に再現することが可能です。
この特性から、ギアやカムなどの精密機械部品、電子部品用のコネクタ金型、医療機器の微細部品など、高い寸法精度と複雑な形状が同時に要求される製品の製造に不可欠な技術となっています。
切断面が滑らかでバリの発生を抑えられる
ワイヤーカット加工は、切断面が非常に滑らかに仕上がるという利点があります。
放電によって金属を溶かしながら切断する非接触の加工方法であるため、切削加工で生じるようなバリやカエリの発生を最小限に抑えることが可能です。
これにより、加工後のバリ取りといった後工程を省略、または簡略化できるため、全体の工数削減に貢献します。
さらに、加工条件を調整して複数回に分けて加工を行う「仕上げ加工」を施すことで、鏡面に近い非常に滑らかな表面を得ることもできます。
この高い表面品質は、摺動部を持つ部品や、見た目の美しさが求められる製品において大きなメリットとなります。
加工時に素材へかかる熱や圧力の負担が少ない
ワイヤーカットは非接触で加工を行うため、工作物に対して物理的な圧力がほとんどかかりません。
切削加工のように刃物で素材を削り取るわけではないので、加工応力による素材の歪みや変形のリスクが極めて低いのが特徴です。
このため、厚みの薄い板材や、脆く割れやすい材質、あるいは細く繊細な形状の部品であっても、変形させることなく安全に加工できます。
また、放電による熱エネルギーは非常に局所的な範囲に集中し、加工液によってすぐに冷却されるため、工作物全体への熱影響も最小限に抑えられます。
これにより、熱変形が問題となるような精密部品の加工にも安心して適用できます。
ワイヤーカット加工のデメリット
多くのメリットを持つワイヤーカット加工ですが、一方でいくつかのデメリットも存在します。
特に、他の加工方法と比較して加工速度が遅い点は、生産性を考える上で重要な課題です。
また、電気を通さない材質は原理的に加工が難しいため、適用できる素材が限られます。
さらに、設備や消耗品にかかる費用から、加工コストが高くなる傾向もあります。
これらのデメリットを理解し、製品の要件や予算と照らし合わせることが、最適な加工方法の選択に役立ちます。
加工速度が他の切削方法に比べて遅い
ワイヤーカット加工の最も大きなデメリットとして、加工速度が比較的遅いことが挙げられます。
金属を放電で少しずつ溶かして除去していくという加工原理のため、フライス加工や旋盤加工といった機械的な切削加工に比べて、同じ形状を作るのに多くの時間を要します。
特に、工作物の厚さが増すほど加工時間は長くなる傾向にあります。
また、高い精度や滑らかな仕上げ面を求める場合には、複数回にわたって加工を行う必要があり、さらに時間がかかります。
このため、一度に大量の製品を生産する量産加工には不向きであり、主に高精度が求められる金型の製作や試作品、少量多品種の部品加工に用いられるのが一般的です。
電気を通さない絶縁体は加工できない
ワイヤーカットは、工作物とワイヤー電極との間に電気を流し、放電現象を発生させることで加工を行う仕組みです。
この原理上、電気を通さない性質を持つ絶縁体は加工することができません。
具体的には、セラミックスやガラス、樹脂(プラスチック)、ゴム、木材といった非導電性の材質には適用不可能です。
そのため、ワイヤーカット加工の対象は金属やそれに準ずる導電性材料に限定されます。
加工を依頼する際には、対象の素材が電気を通すかどうかを事前に確認する必要があります。
この材質的な制約は、ワイヤーカット加工を選定する上での最も基本的な前提条件となります。
加工コストが高くなる傾向がある
ワイヤーカット加工は、他の加工方法と比較してコストが高くなる傾向があります。
その要因はいくつか挙げられます。
まず、ワイヤーカット放電加工機自体が非常に高価な設備であることが一つの理由です。
また、加工に使用するワイヤー電極線は使い捨ての消耗品であり、加工液の純度を保つためのフィルターやイオン交換樹脂なども定期的な交換が必要で、これらのランニングコストも加工費に反映されます。
さらに、加工速度が遅いために機械の稼働時間が長くなり、その分の電気代や管理コストが増加することもコストを押し上げる要因となります。
これらの理由から、特に単純な形状の加工では、切削加工など他の方法に比べて割高になる場合があります。
ワイヤーカットとレーザー加工の主な違いを比較
精密な切断加工として、ワイヤーカットと比較されるのがレーザー加工(レーザーカット)です。
ワイヤーカットとレーザーカットは、加工原理、対象材質、精度、速度の点で異なります。
ワイヤーカットが電気の放電で導電性材料を溶かすのに対し、レーザーカットは高出力のレーザー光で材料を溶解・蒸発させます。
このため、レーザーは金属だけでなく木材やアクリル樹脂なども加工できますが、ワイヤーカットは導電体に限定されます。
精度面ではワイヤーカットがミクロン単位で優位に立つ一方、加工速度ではレーザーカットが圧倒的に速く、量産に向いています。
特に薄板の切断ではレーザーの速度が活かされますが、厚板の加工や最高の精度が求められる場面ではワイヤーカットが選ばれます。
まとめ
ワイヤーカットは、放電現象を利用して導電性材料を精密に切断する加工方法です。
非常に硬い金属でも、ミクロン単位の高い精度で複雑かつ微細な形状に加工できるという大きな利点を持ちます。
また、非接触加工であるため、素材への物理的・熱的負担が少なく、バリの発生も抑えられます。
一方で、加工速度が遅く、電気を通さない材質は加工できないという制約があります。
加えて、設備や消耗品によりコストが高くなる傾向も見られます。
これらの特性から、ワイヤーカットは主に、高い精度が要求される精密金型の製作、試作品、あるいは少量生産の複雑な部品加工といった分野で活用されています。
加工方法を選定する際は、これらのメリットとデメリットを総合的に評価することが求められます。
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